大阪高等裁判所 昭和47年(や)1号 決定 1972年7月26日
請求人 森口和恭 外三名
決 定
(請求人、代理人氏名略)
右請求人らの上訴費用補償請求事件について、当裁判所は検察官の意見をきいたうえ次のとおり決定する。
主文
請求人森口和恭に対し金七万六、一一一円
同小山一吉に対し金七万六、九〇二円
同北中勝に対し金七万五、八三八円
同久坂信輔に対し金七万八、〇一五円
をそれぞれ交付する。
請求人らのその余の請求を棄却する。
理由
請求人らの本件請求の趣旨及び理由は請求人ら代理人小林勤武作成の上訴費用補償請求書に記載のとおりであり、請求人森口については一四万二、六一七・五円(同請求人本人の旅費及び日当と、同請求人の弁護人小林勤武、同伊多波重義、同力野博之、同大川真郎、同前川信夫に支払つた日当及び報酬の合計五三万〇、一五〇円の四分の一にあたる金額との合計)、請求人小山については一四万二、七五七・五円(同請求人の旅費及び日当一〇、二二〇円と前同金額との合計)、請求人北中については一四万二、六一七・五円(同請求人の旅費及び日当一〇、〇八〇円と前同金額との合計)、請求人久坂については一四万四、二九七・五円(同請求人の旅費及び日当一一、七六〇円と前同金額との合計)の補償を求める、というのである。
これに対する検察官の意見は大阪高等検察庁検事田村進一郎作成の意見書に記載のとおりであり、要するに(一)刑事訴訟法三六八条三六九条により補償を請求しうる費用は当該事件の被告人であつたものの負担において支出したものに限られるところ、本件補償請求中弁護人の日当及び報酬は請求人らの所属する毎日放送労働組合の上部組織である日本民間放送労働組合連合会から支出されており、被告人であつたものの負担において支出されたものではないから補償請求することはできない、(二)かりに弁護人に対する日当報酬を補償するとしてもその金額は国選弁護人に支給する額によるべきであり、これをこえる補償請求は失当である、というのである。
よつて検討するに、当裁判所昭和四〇年(う)六二一号威力業務妨害被告事件記録によると、各請求人らは威力業務妨害事件で起訴され、原審大阪地方裁判所において無罪の言い渡しを受け、これに対し検察官から当庁に対し控訴申立をなし、各請求人はそれぞれ弁護人小林勤武、同前川信夫、同伊多波重義、同力野博之、同大川真郎を弁護人に選任し、昭和四六年二月八日から昭和四七年一月三日まで七回の公判期日を経て結局控訴棄却の判決の言い渡しを受けたことが認められる。
以上によると、請求人らは刑事訴訟法三六八条により右控訴審において生じた費用の補償請求をすることができるので、まず右補償をなすべき費用のうち、被告人であつた各請求人自身の旅費日当についてみると、その額は証人に支給すべき旅費日当の額に準じて算定されるべきところ、前記記録によると、各請求人は毎公判期日に出廷していることが認められるので、これを当庁の証人の旅費日当支給基準により算定すると、請求人森口については七、三八六円、同小山については八、一七七円、同北中については七、一一三円、同久坂については九、二九〇円をもつて相当と認められる。つぎに右弁護人であつた者の日当報酬についてみるに、日当の額は国選弁護人に支給すべき日当の額に準じて算定されるべきところ、前記記録によると、小林弁護人は第一ないし第六回、前川弁護人は第一、第三、第四回、伊多波弁護人は毎回、力野弁護人は第一ないし第三回、第六、第七回、大川弁護人は第一、第二、第四、第五、第七回の各公判期日に出廷していることが認められ、これを当庁の国選弁護人日当支給基準により算定すると、その日当の総額は二四、九〇〇円(内訳小林弁護人は五、八五〇円、前川弁護人は二、九〇〇円、伊多波弁護人は六、七〇〇円、力野弁護人は四、七〇〇円、大川弁護人は四、七五〇円)をもつて相当であると認められる。また報酬についてみると、弁護人提出の毎日放送労働組合中央執行委員長石浜俊造作成の証明書によると、請求人らは右各弁護人に対し着手金として五万円宛合計二五万円を支払つていること、また弁護人前川信夫作成の領収書、同小林勤武、同伊多波重義、同力野博之、同大川真郎作成の証と題する書面五通によると右各弁護人は控訴審の報酬として右組合からそれぞれ五万円の支払を受けたことがそれぞれ認められる(検察官は右着手金も各請求人が支払つたのではなく右組合の上部団体である連合会が支払つたものであるというのであるが検察官提出の各資料によつても右認定をくつがえすことはできない)のであるが、刑事訴訟法三六八条により補償すべき報酬は被告人であつた者がその負担において支出したものに限るものと解するのが相当であるから、右毎日放送労働組合が支払つた報酬二五万円は補償することはできず、補償の対象となるのは請求人らの支払つた右着手金に限られることになる。そしてその額は国選弁護人に支給すべき報酬に準じて算定されるべきところ前記記録によつて認められる事件の難易、各弁護人の訴訟活動の状況等に基づき当庁の国選弁護人報酬支給基準を参酌して算定すると、補償すべき報酬の総額は二五万円をもつて相当であると認められる。したがつて弁護人の日当及び報酬額の総計二七万四、九〇〇円の四分の一にあたる六万八、七二五円宛を各請求人に補償すべきものである。
以上の次第で、請求人森口に対しては七万六、一一一円、同小山に対しては七万六、九〇二円、同北中に対しては七万五、八三八円、同久坂に対しては七万八、〇一五円を補償として交付すべく、本件各請求はこの範囲内で正当であり、これをこえる部分は失当として棄却すべきものである。
よつて、主文のとおり決定する。